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加納剛史

准教授

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tkanoobfuscate[at]riec.tohoku.ac.jp

下の方に書いてある研究内容は最近更新していません.最新の研究内容や成果は上記の個人サイトに載せています.

研究

1. 生物ロコモーションに内在する自律分散制御則の解明

 生物は,予測不能的な環境下において,驚くほど適応的かつレジリアントな振る舞いをリアルタイムに生成します.このような振る舞いを発現する上で鍵となる概念が自律分散制御です.これは,単純な知覚・判断をもつ要素(自律個)が多数相互作用することで,大域的に非自明な機能を創発させる制御方策です.本研究では,ヘビ,クモヒトデ,ムカデなどのさまざまな生物をモデル生物として採り上げ,これらの生物の実時間適応的なロコモーションに内在する自律分散制御則を明らかにしようとしています.

 加えて,生物が進化や学習の過程でどのように合理的な自律分散制御則を獲得してきたかという,遅い時間スケールの適応メカニズムの解明も目指しています.

2. 自己駆動粒子系の集団運動の数理モデリング

 自己駆動粒子とは自走する能力を持つ素子のことです.自己駆動粒子が複数相互作用すると,大域的に非自明な集団運動が発現します.鳥や魚の群れ,車の渋滞などが例に挙げられます.本研究では,これらの系について出来る限りシンプルな数理モデルを用いて集団運動の基本原理を探り,その原理をもとにさまざまな系に適用可能な「理にかなった」自律分散制御手法を構築する(自律分散制御の体系的な設計論を確立する)ことを目指しています.

(1) 群ロボットの自律分散制御

 複数のロボットが協調して全体としての機能を果たすことができるシステムのことを群ロボットシステムと言います.本研究では,出来る限りシンプルな問題設定をもとに群ロボットの制御手法を考察することで,自律分散制御の体系的な設計論の確立に貢献しようとしています.たとえば,一部のロボットが犠牲になって他のロボットを助けることで,全体としてうまく機能することができるような群ロボットシステムなどを考案しています.

(2) 交通流の自律分散制御

 近年,交通渋滞が深刻な社会問題となっており,エネルギ消費や環境汚染により多大な経済損失がもたらされています.本研究では,安全性を保ちつつ渋滞を解消することが可能な交通流の制御手法を構築しようとしています.たとえば,交通量の変動に応じて赤-青の切り替わりタイミングを自動調整できる交通信号の自律分散制御手法を開発しています.さらに,車が完全自動運転化された将来の交通システムでは信号機も車線も不要になり,歩行者流のように車が二次元平面状を自由に動き回れるようになるのではないかという作業仮説のもと,未来の自動運転車の自律分散制御方策について考察しています.

(3) 交友関係の形成過程に着想を得た非対称相互作用モデルに関する研究 

 非対称相互作用モデルは,人間社会における交友関係の形成過程に着想を得て,遊び心で作ったモデルです.簡単なモデルなのでここで紹介しましょう.実空間内の二次元平面上に多数の素子が存在しています.各素子は一個人を表していて,$i$ 番目の素子の位置 $ \mathbf{r}_i $ の時間発展を以下のように記述します:

$$ \dot{\mathbf{r}}_i=\sum_{j\neq i}(k_{ij}|\mathbf{R}_{ij}|^{-1}-|\mathbf{R}_{ij}|^{-2})\hat{\mathbf{R}}_{ij} $$

ただし,$\mathbf{R}_{ij}=\mathbf{r}_j-\mathbf{r}_i$,$\hat{\mathbf{R}}_{ij}=\mathbf{R}_{ij}/|\mathbf{R}_{ij}|$ です.$k_{ij}$ は $i$ が $j$ をどれだけ気に入っているかを示すパラメータで,右辺第一項は,$k_{ij}$ が正の時は$j$番目の素子に向かう効果,負の時は $j$ 番目の素子から遠ざかる効果を表します.右辺第二項は排除体積効果を表し,これは他人が自分に接近し過ぎると居心地が悪いと感じる心理に由来しています.

 上記モデルにおいて,$k_{ij}$ の値をいろいろ変えてシミュレーションしてみたところ,多種多様なパターンが自己組織的に発現しました.(動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=1doJowB9yc0をご覧下さい.)このようなパターンが発現する鍵は,素子間の相互作用が非対称である(つまり$k_{ij}$と$k_{ji}$が必ずしも等しくない)ことにあります.

 本研究では,この遊び心で作ったモデルに何の学術的意味があるのかを探求しています.たとえば,油滴の集団運動などのアクティブマター系の理解,上記(1)に述べた群ロボットの設計などに,このモデルを役立てようとしています.

過去の研究

Multi-linear feedbackに基づく結合振動子系の制御

リミットサイクル振動子がその相互作用によってリズムを揃える同期現象は,自然界に広く知られた現象である.近年,工学や医学の分野において,このような結合振動子の位相関係を人為的に制御することが必要とされている.本研究では,位相モデルにおける結合関数の関数形をmulti-linear feedbackによって任意に変化させることで振動子の位相関係を制御する手法を提唱し,その妥当性をシミュレーションにより検証した.この手法は個々の振動子の詳細なメカニズムによらず用いることができるため,広範な分野での応用が期待できる.

密度振動子の流れの転換過程の解明

密度振動子は,底に細い管を取り付けた小さな容器に密度の高い流体を入れ,それを密度の低い流体が入った大きな容器に取り付けると,管を介して流体が振動する現象である.本研究では,流体の粘性率を変化させて流れの転換過程の詳細な測定を行い,得られた実験結果をもとに数理モデルを構築した.その結果,流れの転換過程は1)流体の粘性による転換の抑制効果,2)静水圧勾配による転換の促進効果,3)流体の管面からの剥離による転換のトリガー効果,の3つの要因の拮抗によって説明できることを明らかにした.

経歴

1977年3月21日生.2002年北海道大学医学部医学科卒業.2008年大阪大学大学院生命機能研究科博士課程修了.同年,同大学特任研究員.2009年東北大学助教(大学院医学系研究科).2011年東北大学電気通信研究所助教.2016年同准教授,現在に至る.2011 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems NTF Award Finalist for Entertainment Robots and Systems,日本数理生物学会第10回研究奨励賞などを受賞.日本数理生物学会,日本物理学会,計測自動制御学会の会員.

業績

https://scholar.google.com/citations?user=bK1BQsUAAAAJ&hl=en&cstart=0&pagesize=20

趣味

テニス,オンライン英会話